ユニクロの通年採用に抱く期待と、微妙な思い

既に散々メディアで紹介されてきましたが、正式にプレスリリースも公開されたようですので。

■「プレスリリース:ユニクロは、『自分にふさわしい仕事は何か?』を考えるチャンスを増やす、通年採用を開始」(ユニクロ)

2013年度の採用方針
1.世界を良い方向に変えていく。ビジョンを共有できる同志を採用します。
2.新卒/中途の壁を撤廃し、オープンな通年採用にします。
3.大学1・2・3・4年/第2新卒/経験者問わず、応募したい時に応募できます。
4.入社前から、就業体験プログラムや、経営者育成のための研修※に参加できます。
5.国籍も国境も関係なく、世界中の仲間と働き、世界中で成長できます。

(上記ページより)

ポイントは、以下の通りです。

◆大学1年生以上であれば、いつでもユニクロの採用に応募することができる
◆一般的な企業が行っているスケジュール(12月1日説明会スタート、4月1日選考開始)によらない、通年採用である
◆会社説明会や適性検査を経た後で、インターンシップもしくは数カ月のアルバイトが採用の条件であり、そこで会社と本人が相互に「OK」と判断すれば、最終面接をいつでも受けられる「パスポート」がもらえる
◆最終面接を通過すれば「内々定」を得て、大学卒業と同時の入社が確約される

株式会社ワークスアプリケーションズが、インターンシップの成績優秀者に、最長5年間いつでも入社可能な「入社パス」を出す仕組みを持っているのですが、それに似た部分がありますね。


日本の就職活動(企業から見れば採用活動)のやり方が、どう考えても行き詰まっている中、なかなか衝撃的なプランではあります。少なくとも、「就活って何だろう」と、改めて考えさせてくれる出来事には、なっています。

現在のところ、全体としては、好意的に評価する方が多いようです。
立場によって、意見は分かれそうですが。

まず、企業で採用を担当していた立場として考えると、メリットの方を強く感じます。
特に魅力的なのは、インターンシップへの参加が応募の条件である点と、人物評価が現場に任されている点です。

それまでキャリアのことなんてほとんど考えてこず、自分で適性を探すような試行錯誤もしてこなかった学生が、就活シーズンになると同時に、まるで長い間考え続けてきたかのように「これこそやりたいことです」と言う。最後はほとんど思い込みに近いような形で最終選考を通過し、入社すると「こんなはずではなかった」と言って辞めてしまう。そんなケース、少なくないはずです。
(何も、今の学生だけを批判しているのではありません。自分自身の就活も、まったく同じでしたから)

こうしたミスマッチを未然に防ぐために、相互理解の場として、会社説明会だの先輩訪問だのを会社は企画するわけですが、やっている方からすると、何だか本質的ではないなと思えてしまうのです。たった数回の接触では、お互いに、表面しかわかりませんからね。

それに現代の採用活動では、「こうした相互理解のための企画」自体が、採用活動支援を手がける企業によって仕掛けられる、一種のパフォーマンスになってしまっています。
そうした企業に高いお金を払い、「会社への理解度を増すための施策」にコストと労力を費やしていると、

「これで誰が幸せになるの?」
「もっと本質的なマッチングの方法はないの?」

……と、つくづく疑問に思うわけです。

この点、中長期のインターンシップを条件にすれば、会社が学生を総合的に判断できるだけでなく、学生も実際の仕事を通じて会社を判断できるでしょう。

特にユニクロのような企業の場合、「打ち出されているビジョンはグローバルだけれど、実際の仕事は地域の店舗運営で、イメージしていたのと全然違う」ということが、どうしたって起こりえます。当たり前です。でも、そうした業務ばかりなら嫌だという学生は、インターンシップを経て就職を考え直すでしょうし、会社の方だって、そんな生半可な気持ちの人に来てもらったら困るでしょう。気づきがあったなら、結果的にはお互いにとって良かったということになります。

現場でのインターンシップ/アルバイトを通じ、お互いに相手を判断するというのは、少なくとも現在の就活のあり方よりは、はるかに本質的なマッチングの方法です。

手間はかかりそうですが、現在の新卒一斉採用でも、それは同じ。説明会や面接の運営のために、年度末の忙しい時期、一斉に大量の社員をかき集めなければならず、会社の機能に影響を与えている企業もあると思います。全国の店舗や支社でその負担をバランスするシステムができれば、長期的には楽になるでしょう。

一方、大学で働いていた立場で考えると、若干、複雑な思いです。

学生の就職活動が、大学の学業に深刻な影響を与えているというのは、周知の通り。学生が早期から時間をかけながらキャリアについて考え、就活シーズンに振り回されなくて済むというのであれば、大学にとってもプラスです。

また、ユニクロへの就職活動を通じて、早期から自分の道を考え、それが学業への姿勢に良い影響を与えてくれるとしたら、それは歓迎すべきことです。大学関係者には、就職活動のあり方に疑問を感じている方が多いでしょうから、こうした点について、同社を賞賛する声もあるでしょう。

その一方で、こんなことを考えたりします。

例えば、大学が高校1年生に対して、

「君は我が大学の理念をよく分かってくれている。現時点での成績も悪くないから、合格にしよう。卒業と同時に、入学を許可するからね」

……と言ったら、どうでしょうか。

高校の教員の中には、よっしゃあと手放しで喜ぶ人もいるかもしれませんが、中には、

「仮にこの生徒が、この後で学力を落としたとしても、それは大学での学びに何ら影響がないということか。だとしたら、あなたの大学で行われる学びとは何なのだ?」

「高校1年生の段階でも評価ができるというのはつまり、その後の3年間での成長や気づきというものは、評価の対象外なのか? つまり、わが校での教育には、大して期待していないということか?」

「まだ様々な進路に出会う可能性があるのに、囲い込まないでくれ!」

……といった疑問を抱く人もいるだろうと、私は思うのです。
で、大学はユニクロから今、同じことを言われているのだろうなと感じるのです。

英語の社内公用語化で注目を集めるユニクロですが、それ以外の専門知識やアカデミックな能力には、同社は期待していないのかな、とも思ってしまいます。もっとも、会社の仕組みと自助努力でそうした力はつけられるので、大学には期待していない、ということなのかもしれませんけれど。

……書いていて思ったのですが、これはユニクロがどうということではなく、大学の側が努力すべきところなのかもしれませんね。悔しかったら教育を変えてみろ、というユニクロから大学への挑戦状なんだと考えましょう。うん。

ユニクロの打ち出した方針には、基本的には賛同します。少なくとも、現在の新卒一斉採用よりは、よほど本質的ですし、大学、学生、企業の全員にメリットがあると思います。
実験的ですが、かなり画期的な制度で、少なくともしばらく実験してみる価値はあるでしょう。
(もっとも、他社でまったく同じ仕組みが成立するとは思いませんけれど)

一方で学生の皆さんには、「あんまり焦りすぎる必要もないよ」とはお伝えしておきます。

大学生になってばかりの時期でインターンシップに参加すると、「ユニクロ以外の世界」を知らないままです。何しろユニクロですから、ビジョンを熱く伝える仕掛けも用意していることでしょう。インターンシップを通じて同社に共感し、入社の意思が強くなるようなストーリーもある程度、描かれていると思います(そうでないとユニクロの内々定を得た学生が、それを保険にして他社の採用に走るという現象が起きます)。採用活動をしていたからこそ言いますが、企業の採用担当や、それを支援する就活産業の人々は、そういうプロ達なのです。

早くに「運命の相手」に出会うことを悪いとは言いません。
ただ、大学4年間で得られる気づきというのも、小さくはありません。ユニクロ以外のバイトもしてみてから考えたって遅くはないので、過度に焦らず、自分のペースでじっくり考えてみることを、個人的にはオススメしておきます。

最後に。
ユニクロのこの仕組みが、日本経団連の倫理憲章などにも抵触しないと認められれば、慢性的に人手不足の業界や企業で、同じことをやろうという会社が増えそうです。それも、もっと問題の多いやり方で。
それが、結果的に学生の学業を圧迫しないことを願うばかりです。

2 件のコメント

  • 大学で学ぶことの意味が怪しくなっている…。それはおそらく以前から問題視されていたのですが、近年、大学卒業者の就職状況があまりに厳しく、より就職に特化した専門学校への進学や、企業との繋がりの強い高校、高等専門学校(いわゆる高専)などの方がいいのでは、という声すらも聞きます。大学の関係者として、そのような意見に多少同意する点もあります。ただ、このニュースにおいて、見落とされている点としては、大学という組織は、「特定の大学を卒業した博士課程取得者の中の一握りの超エリート層」にとっての雇用先として存在しています。厳しい言い方をすれば、現在、大いに世間から批判されているエネルギー関連の企業などと、仕組みはそう変わりません。つまり社会で必要な技能を身につけるためにある、という目的はとうの昔に終焉しており、大学の授業で行われている教育によって身に付けられるスキルは、企業社会で求められるスキルと乖離しています(一部の有名大学を除いて)。しかし、矛盾するようですが、それだけ大学進学の意味すら怪しい時代に「大学受験」に勤しめる競争意識を持った学生(結局は多くの場合、富裕層の子弟といっても過言ではありません)が結局は就活に有利です。矛盾するようですが、このユニクロの方式によって、内定を勝ち取る人たちは、結局一部の「高偏差値」の「有名大学」卒業者が多くなるように思います。