攻める大学図書館

マイスターです。

大学には必ずある施設、大学図書館。
利用率が低下していたり、貸出冊数が減少していたりと、改善を求められている大学がある一方で、最新の教育コンセプトと建築設計のトレンドを反映し、学生に大人気の図書館もあります。

地域貢献として図書館を市民に開放したり、コーヒーショップを誘致したり、館内の私語を解禁にしたり。
大学の学びや役割が変容していく中で、「図書館って、こういうもんでしょ」という昔からのイメージも、少しずつ変わり始めているようです。

【今日の大学関連ニュース】
■「大学図書館へ行こう! イメチェン、市民に開放 」(神戸新聞)

コンクリート打ち放しの閲覧室に談笑があふれている。AVブースで映画を楽しみ、併設のオープンカフェや屋上庭園で本を広げる姿も。大手前大(西宮市)に昨秋誕生した「メディアライブラリーCELL」はファッションビルのようだ。
同大図書館の守屋祐子事務室長は「読書や学習を強いず、私語もOK。物理的・精神的に居心地のよい空間を目指した。繁盛する店づくりと考え方は同じ」と言い切る。
一番の特徴は閲覧室に連なる十六の小部屋。グループ討論をしたり芸術系の学生が個展を開いたり、自由に活用できる。約二十万冊の全蔵書を開架とし、パソコンでの検索にはない「偶然の出合い」を演出した。
「斬新でおしゃれ」「使いやすく快適」と学生の評判は上々。毎日通ってくる市民もいて、利用者は倍増したという。
(上記記事より)

改築にあわせて、大学図書館のコンセプトを全面的に見直す事例がちらほらと出てきているようです。

そんなわけで、上記で紹介されているのは、大手前大学の「メディアライブラリーCELL」。

■「Media library CELL」(大手前大学)

「読書や学習を強いず、私語もOK」というのは、部分的に許可するところは他にもあるでしょうが、こちらでは全面的にOK。
居心地がよく、足を運びたくなる施設を目指した結果でしょう。かなり大胆な発想の切り替えです。

■「Media library CELL:施設」(大手前大学)

「メディアライブラリー」という名称の通り、図書館というのは、もはや適切ではないかも知れません。
書架や閲覧室、学習スペースといった機能は、全体のほんの一部。
カフェやマルチメディア教室、「CELLs」と呼ばれる多機能な小教室群などを備え、様々な目的・タイミングで学生に利用されるような施設になっています。

最近は、図書館ではなく「メディアセンター」のような名称を付ける大学が少なくないようです。
図書館機能に加え、パソコンおよびインターネット利用の機能を持たせた段階で、こういった名称変更を行っている大学が多いようですが、さらに一歩踏み込み、学生が自由に使えるグループミーティング用の会議スペースを備えたり、「私語OK」なエリアを設けたり、カフェを併設したりといった工夫をする大学もあります。全フロア無線LAN対応というのも、もはや珍しくありません。

最近では、↓こちらの図書館も、話題になったでしょうか。

■「情報図書館のご案内」(成蹊大学)

図書館に、このような図書館らしからぬ機能が次々と盛り込まれていく背景には、大学での学びの変化もあるでしょう。

現在の大学教育は、以前のように授業を受けて一人で勉強して、テストやレポートで良い点を取ればそれで良い、というものではなくなっています。
授業のために他の学生とグループワークを行い、調査や議論をし、その成果をプレゼンテーションするといった学習スタイルが当たり前になってきました。その際、図書に加え、インターネットやPCを駆使して情報を整理・分析するといった作業も、当然のように行われています。

こういった学習を行う舞台としては、従来の大学図書館の機能だけでは、十分ではありません。
何しろ、私語厳禁で、静かに本を探して読み、勉強するだけの空間なのですから、グループワークを行いようもありません。昔の学習スタイルにしか対応できていないわけです。
多くの大学では、コンピューター端末室も大抵、私語禁止です。そこで仕方なく、食堂や、街中の喫茶店などでグループワークを行ってみるものの、そこではインターネットがなかったり、必要な資料がすぐに使えなかったりします。

そんなわけで、そんな教育スタイルの変化に対応する形で、「図書館」から一歩踏み込んだ、「メディア○○」みたいな施設の在り方を大学が模索しているところなのかな、と思ったりします。

逆に言うと、昔ながらの教育を行っている分には、図書館の在り方を変える必要はないわけです。
あれこれ試行錯誤しながら図書館に工夫を凝らしているということは、「新しい教育スタイルを模索している」という、大学の意欲の現れでもあるのでしょう。

兵庫県大学図書館協議会(会長館・神戸大)によると、加盟大学四十七校のうち三十五校で市民の閲覧が可能。十九校で館外貸し出しも行っている。大学の持つ知的財産を、広く地域に提供しようというわけだ。
神戸大(神戸市灘区)でも、学内九館のうち総合・国際文化学図書館、海事科学分館の二館で、三年前から市民貸し出しを始め、年間六百-七百件の利用がある。
さらに利用者参加型で活性化を図るのは関西学院大(西宮市)。初代図書館長の名にちなむ「JCCニュートン賞」を二〇〇〇年に創設した。対象は市民を含む図書館カードを持つ人。論文やエッセー、戯曲など形式は自由で、今年は「食」をテーマに作品を募る。
(冒頭の記事より)

このように、利用者を拡大するというのもまた、大学図書館の一つの潮流のようです。
大学図書館は専門図書の充実度など、一般の市民図書館を超える部分も多く、市民にとっても心強い存在でしょう。

一口に開放しているといっても、大学によってそのレベルは異っていそうです。
誰でも学生同様に利用できるというところもあれば、授業の聴講などを行っている方だけOKというところもあるでしょう。
貸し出しまで認めるというところもあれば、閲覧だけというところもあるでしょう。

開放を進めていけばいくほど、既存の市民図書館と機能が重複してくる部分もあるでしょうから、そういった図書館のネットワークとどう連携していくかもポイントになりそうです。
大学図書館は、基本的に学生の学費などで運営されている部分が大きいでしょうから、そういったコスト面の折り合いをどうつけていくかも課題だと思います。

以上、大学図書館に関する話題をご紹介しました。

今では図書館側から、学生や社会に対して、様々なことを「仕掛けていく」ことが求められる時代なのかなと思います。
大学図書館、「攻め」の時代ですね。

以上、マイスターでした。

※この記事は、現役高校生のための予備校「早稲田塾」在籍当時、早稲田塾webサイト上に掲載したものです。