韓国の大学入試 2007

マイスターです。

なんだか毎年ご紹介しているような気分になりますが、この話題、今年もやっぱり取り上げさせていただきます。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「韓国、職場から交通網まで全国一斉に『大学試験シフト』」(AFP BBNews)
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2312135/2353660
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韓国の大学入試センター試験にあたる「大学修学能力試験(College Scholastic Ability Test、CSAT)」が実施された15日、韓国国内では時差通勤から飛行機の発着停止まで、交通網や経済活動が一斉に「大学試験シフト」を取った。

同テストは終日実施され、全国で約60万人が受験した。学歴を何よりも重視する韓国社会では、この全国試験を円滑に進めるためならば毎年、どんなことでもする勢いだ。(上記記事より)

というわけで、韓国で「大学修学能力試験」、通称「修能試験」が今年も行われました。

この修能試験、「韓国版の大学入試センター試験」と説明されることが多いのですが、実態は少々違っています。
韓国では国立、私立に関係なく、大多数の大学がこの修能試験の点数で合否を判断します。二次試験を行う大学ももちろんありますが、やはり修能試験の点数は重視されると聞きます。

全国の国公私立大学、すべてが「センター試験利用入試」でしか学生をとらない。
そんな大学受験をイメージしていただければ、韓国の修能試験の苛烈ぶりもなんとなく想像できるのではないかと思います。

さて、「どんなことでもする勢いだ」とありましたが、実際、どんなことをしているのでしょう。上記の記事からいくつか抜き出してみます。

例えば女性の試験監督官は、男子受験生の気を散らさないように、ハイヒールや過度な化粧、香水の使用をやめるよう注意を促される。

この辺はまだ、日本でも常識の範囲内。ですが……

58万5000人が試験会場へ向かう朝、通勤渋滞をなくすために公務員および大企業の従業員は全員、通常よりも1時間遅れて出勤するよう命じられた。証券市場も同じ理由で、開始は1時間遅らされた。

(上記記事より)

この辺から、ちょっと驚く要素が増えてきます。
実際、14日のロイター通信のニュースには、↓こんなものが混じっていました。

■「15日の韓国金融市場、大学入試の影響で取引開始が1時間遅れ」(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-28891920071114

一体どうして大学入試のために証券取引の開始時刻が遅れるのかと、世界中の投資家が不思議に思ったことでしょう。

冒頭の記事に戻りましょう。まだまだ続きます。

一方、地下鉄は増発され、バスやタクシーも稼働台数が増やされた。試験センター周辺の駐車は禁じられたほか、英語のリスニング試験中には車のクラクションを鳴らさないよう、ドライバーには警告が発せられた。

空の便も同様だ。金浦(Gimpo)空港のLee Kun-Koo管制官によると、試験の時間帯に2回、民間の全国内線はのにわたり、地上で待機するか、高度3000フィート(約910メートル)以上にとどまるよう命じられた。その2回とは、試験開始後約20分間と、リスニング試験が行われる昼過ぎの約30分だ。

(上記記事より)

日本でも、センター試験のリスニングテスト中は、試験会場近くでパトカーや救急車のサイレンが鳴らないように配慮されました。
沖縄では、試験会場に隣接した米軍基地に、ヘリや飛行機の発着を控えるように依頼したと聞きます。

ただ、民間の飛行機までは止めていなかったと思います。
それも、「民間の国内線」ですよ。

「ただいま、当機は目的地の空港上空に到着いたしましたが、現在地上でリスニングテストが行われておりますため、着陸を見合わせております。今しばらくお待ちください。」

みたいなアナウンスを流したのでしょうか。
おそるべし、韓国の修能試験。

盛り上がっているのは、試験運営側だけではありません。
受験生を応援する態勢もばっちりです。

以下、これまでのブログ記事でご紹介したニュースをまとめてみましたので、ご興味のある方はどうぞ。

■「大学修学能力試験 受験生の登竜門『修能試験』は、韓国のセンター試験!!」(SEOUL NAVI)
http://www.seoulnavi.com/area/area_r_article.html?id=1223
■「韓国の受験は日本以上にキビシイ!?〜修学能力試験」(konest.com)
http://www.konest.com/data/korean_life_detail.html?no=568
■「韓国のセンター試験 『修学能力試験』の一日を追う」(konest.com)
http://www.konest.com/data/korean_life_detail.html?no=424
■「韓国版センター試験「修能」にあわせ、合格祈願のイベントが続々」(マイコミジャーナル)
http://journal.mycom.co.jp/news/2005/11/24/002.html

・韓国で増加している? 「大学入試離婚」(2007年08月14日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50334338.html

受験生の家族はもちろん、学校の後輩、警察やタクシー会社なども巻き込んでの大サポート合戦です。
企業も、合格祈願グッズをこれでもかと市場に投入し、「応援してあげたい」という気持ちに全力で応えてくれて(?)います。
子供の受験勉強に悪影響が出てはならないと、離婚のタイミングを入試終了まで延期する親もいるほどです。

ただ、こうして国を挙げて大騒ぎするのも、やはり韓国の受験競争がそれだけ苛烈だからなのでしょう。

韓国は、日本以上の学歴社会だと言われており、「聞こえの良い大学」に対する信奉は今でもかなり強いと聞きます。
(子供が幼いうちから私費を費やして語学を学ばせたり、早期に海外留学させたりする熱意も、元はこのあたりにあるのでしょう)

こういった大学入試のあり方には、当然のことながら批判もあります。たった一回の試験で人生が決まるような社会でいいのか、という意見は毎年、目にします。

教育の機会均等を推進する市民団体に所属するChung Kyung-Hee氏は、「CSATは廃止されるか、大胆に変革されるべきだ。学生たちから公正な競争を奪っている」と批判する。「若い学生たちの未来やキャリアが、この試験の結果次第になってしまっている。実際の能力に関係なく、トップの大学に進めるのはこの試験で選ばれた者だけに限られている」

漢陽大学(Hanyang University)のCheong Jean-Gon教授(教育学)も、この試験の過程は「地獄だ」と言い切る。教授は中央日報の英字日刊紙JoongAng Dailyに、試験の当日に寝不足だったり、風邪をひいたりして良い成績を残せなければ、数年間の勉学の機会を棒に振るとの批判を寄せた。

「われわれの大学入試制度は生徒たちの心身を傷つけている。ひどい場合には自殺を選ぶ者が出るほど、彼らを追い詰めている」とJean-Gon教授は警告する。そして、学生が興味を持った科目を学習でき、意味のある高校生活を送り、知性と素晴らしい人柄を持ち健康な人間に成長できるような教育制度の導入を呼びかけている。(c)AFP

(「韓国、職場から交通網まで全国一斉に『大学試験シフト』」(AFP BBNews))

実際、過去には↓こんな不幸なニュースも見かけました。

■「浪人生、修能試験の朝に投身自殺 『重圧に耐え切れず・・・』」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/11/23/20051123000028.html
■「韓国全土に衝撃。携帯電話カンニング事件を追う」(ITmediaモバイル)
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0412/13/news033.html

今年のニュースでは、↓こんな、ちょっと変わった報道も。

■「少女時代の6人、歌手活動のために大学入試を放棄」(Innolife.net)
http://contents.innolife.net/news/list.php?ac_id=7&ai_id=78417

韓国のアイドルグループのメンバー達が、修能試験を受けない(修能放棄)という選択をしたことを報じるニュースです。
大学入試を受けないからって、わざわざこんな釈明コメント出すでしょうか。日本だったらちょっと想像しにくいです。

でも韓国は、大学進学率が8割以上という超・大学ユニバーサルアクセス社会ですから、大学に行かない人は「なぜ行かないのか」を周りに説明しないといけないような、そんな空気があるのかもしれませんね。

(参考:過去の関連記事)
・韓流受験戦争の後ろにあるもの 〜韓国の大学事情〜(2005年11月25日)
https://unipro-note.net/wpc//archives/50102792.html

↓先日、こうした大学入試を変えようという公約を掲げた韓国の政治家の例をご紹介しましたが、こういう公約が出てくる理由も、少し理解できる気がします。

(過去の関連記事)
・「大学入試全面廃止」を公約に掲げる政治家(2007年11月06日)
https://unipro-note.net/wpc/archives/50379872.html

大学入試のために努力して勉強することは、悪いことではないでしょう。
ただ、過度に受験生にプレッシャーをかける社会環境や、「とにかく少しでも聞こえの良い大学に入れば良いんだ」という価値観の押しつけがあっては、せっかくの学びも本末転倒になります。
(日本にも最近は、とにかく東大に受かりたい人のための予備校、みたいなのがありますが……)

この先、韓国の方々が、こういった社会システムをどのように変えていくのか、個人的にはとても興味があります。

もっとも最近韓国では、大学や大学院を出ても希望の職に就けない人が増えているらしいですから、仮に大学での入学競争が(形の上で)無くなったとしても、今度は就職競争が激しくなるだけかもしれません。
あるいは海外の一流大学に入れるよう、留学準備として語学やSATの試験勉強に力を入れるようになりそうな気も。
うーん、やはりそう簡単にはいきませんか。

というわけで今日は、韓国の修能試験に関する話題をご紹介させていただきました。

マイスターでした。