文科省と財務省、大学改革巡って「試算」合戦

マイスターです。

最近、大学関係で「○○省が試算」という報道が続いているような気がしませんか?

特に目立つのが、財務省と文科省の動きです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「国立大交付金、競争原理で再配分なら74大学で減額」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070521i115.htm

■「大学交付金大幅減 『目先の発想キリギリス的』 財務省試算を文科相が批判」(北海道新聞)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/27525_all.html
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まずはこちら。順々に見てみましょう。
まずは財務省の試算から。

国立大学の運営資金として国が支出している「運営費交付金」について、財務省は21日、研究成果などに応じて再配分すると、全87大学の85%にあたる74大学で交付金が減額されるとする試算を発表した。

(略)財務省は、国立大予算を効率的に使うために、運営費交付金を、成果や実績に基づく配分に大胆に改める必要があるとし、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)に提出した資料で試算をまとめた。配分に競争原理を導入すれば、国立大の研究・教育レベルの向上も見込めるとみている。

試算は、各大学が研究・教育活動に積極的に取り組んでいるかどうかの尺度として〈1〉価値があると認められた研究が対象の科学研究費補助金(科研費)〈2〉大学独自の教育・研究内容に応じて配分される特別教育研究経費――が各大学にどのように配分されているかを使った。

運営費交付金の配分を科研費の比率で再配分すると、多くの研究テーマが認められ、多額の科研費を獲得している大学への配分が増え、研究の少ない大学は配分が減る。

(「国立大交付金、競争原理で再配分なら74大学で減額」(読売オンライン)より。強調部分はマイスターによる)

研究成果をベースにして国立大学の運営費交付金を配分しよう、という財務省の主張です。
この結果どうなるかというと、

試算によると、現在より配分が増えるのは〈1〉東京大学〈2〉京都大学〈3〉東京工業大学など、わずか13大学と全体の15%で、残りの74大学は減額となる。

トップの東大は112・9%増と交付金が倍増するが、最も減額が大きい兵庫教育大学では90・5%減と、現状の約1割に減る計算だ。研究よりも、教員育成が主な目的である教育大学に大幅な減額が集中しているのも特徴だ。

(「国立大交付金、競争原理で再配分なら74大学で減額」(読売オンライン)より)

……こうなるわけです。
研究成果だけで予算を配分すると、教員養成系大学を始め、地域の人材を育成することに注力してきた大学は大きく減額されることになります。というか、大半の大学が減額されます。特に兵庫教育大学が「9割減」なんて、「どう考えても極端すぎるのでは」と誰もが思う試算方法です。

で、文科省がそれに反発しています。

国立大の運営費交付金を競争原理によって配分すると、多くの大学で交付額が大幅に減るとした財務省の試算について、伊吹文明文部科学相は二十二日午前の閣議後会見で、「そういうのをキリギリス的発想という。目先の財政資金を減らしたい、すぐにカネもうけにつながるという発想で教育資金を配分するのは危険な考え」と強く批判した。

伊吹文科相はさらに、地方大学や教員養成系大学で減額の幅が大きくなっていることに対し、「地方の大学や教員養成の大学では応用技術の論文を書かないかもしれないが、有為な人材を生み出すために仕事をしている」と述べ、研究実績で配分するという方法に疑問を投げかけた。

(「大学交付金大幅減 『目先の発想キリギリス的』 財務省試算を文科相が批判」(北海道新聞)より)

……と、もっともな批判を展開しています。

(ただ大臣の批判、後半はいいのですが、前半は言葉の選び方がやや安直な気がします。「キリギリス的」って何かちょっと違うんじゃ。議論を単純化しすぎていませんか……。「カネもうけ」という言葉も、ここで出すのは何だか強引な気がっ)

……と、ここまでが第一ラウンド。
さらに試算合戦は続きます。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「地方大学の経済効果400─700億円…文科省が試算」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070527i303.htm?from=main3
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文部科学省は、地方の国立大が消費や雇用を通して、1大学あたり年間400億~700億円の経済波及効果を地域に及ぼすと試算した。

同省がこうした試算をするのは初めて。地方の国立大を巡っては、財務省が、主要財源である運営費交付金の配分に成果主義を導入し、再編・統合を進めるよう主張している。文科省は今回の試算を基に、地方大の役割を強調する方針で、議論が過熱しそうだ。

今回の試算は、文科省が財団法人「日本経済研究所」に委託。付属病院を持つ総合大である弘前、群馬、三重、山口の4大学を対象に調査が行われ、今月、報告書がまとめられた。

例えば、学生数7017人、教職員数2949人(2006年5月現在)の群馬大の場合、飲食費やアパート賃貸料など教職員・学生が消費する額を176億円と試算。研究資材の購入など大学による消費なども合わせると、総額は393億円となり、農林水産業などへの間接的な効果も加えると、全体の経済効果は597億円となった。同様に弘前大の経済効果は406億円、三重大は428億円、山口大は667億円。また、大学関連の雇用者数は、各大学とも県全体の約1%を占めていた。

(上記記事より)

今度は文科省の攻撃です。
はっきりと財務省の試算に対抗する形で、このような試算結果を発表してきました。
ちなみに試算を行ったのは、文科省と経産省が主務官庁を務めている財団法人です。文科省と経産省の両方の方針に反しない、見事な調査です。

なお、先ほど「すぐにカネもうけにつながるという発想で教育資金を配分するのは危険な考え」と大臣がおっしゃっていたような気がしますが、その文科省が今度は、「地方大学には地方の経済を活性化させるという存在意義があるんだ。だからつぶしちゃいけないんだ」という主張をされていて、なんか話がややこしくなってきました。

まだまだ続きますよー。
今度は財務省のカウンターパンチです。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「国立大学費に格差 財務省検討 学部間も経営判断で」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007052602019274.html
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全国の国立大学で一律になっている授業料や入学金について、財務省は二十六日、大学や学部の独自の教育内容や経費に応じて、格差をつけられるようにする方向で検討に入った。現行制度では「標準額」から最大20%増を上限に各大学が設定する仕組みだが、横並び意識が強く大半は標準額と同額に設定している。設備にコストがかかる医歯系や理系の学部は、これまでより高くする一方、文系を安くするなど学費設定に経営判断と競争原理が働くようにし、従来の体系を抜本的に見直す。

(上記記事より)

おっと今度は、国立大学の理念の聖域である学費に踏み込んできました。
医学部の学費が高騰して、お金持ちしか医学を学べなくなりそうです。
奨学金をよほど充実させないといけませんが、そこについては、具体的にどうすれば実現できるという提案はありません。

……と、ここまで少し茶化して、ご紹介してまいりました。

いかがでしたでしょうか?

マイスター言いたいのは、財務省も文科省も自分達の省益に沿った、すごく極端な発表しかしてないんじゃないか? ってことなんです。

例えば冒頭の財務省の試算結果。マイスターは、これを財務省が本気で実現できると考えているとは、あまり思えません。それくらい極端な分析だからです。
どうも個人的には、始めから文科省に対してプレッシャーをかけるというか牽制するというか、ケンカをふっかけるためにこんな数字を用意したとしか思えないのです。
ぶっちゃけ全部、「予算をいかに削減するか」というストーリーのための台本でしょう。

文科省の姿勢も、財務省とあまり変わりません。
報復のように用意された「結論」の数々が、マイスターにはやはり恣意的で極端なものに感じられます。

大学間である程度の競争を行うのは、そう悪いことではありません。問題は、「どの程度なら健全な競争で、どの程度は保護すべきか」とか、「どういう競争の仕方が望ましいか」ということではないでしょうか。
しかし上記の報道を見ていると、文科省は「競争」という行為自体をかたくなに認めないかのように感じられてしまいます。
ちなみに以前にも、↓こんな報道がありました。

(過去の関連記事)
・ニュースクリップ[-3/18]「地方国立大『存続ムリ』競争型の交付金案牽制」ほか(2007年03月18日)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50298576.html

マイスターには、財務省の試算結果も文科省の試算結果も、はじめから省の方針ありきの、数字遊びのように見えてきてしまうのです。

よく「縦割り行政」とか「省の間の綱引き」とか言いますが、個人的にはこんな見え透いた発表合戦なんてせず、財務省と文科省の間で、「一番良い競争状態」を考えていただきたいところです。お互いを全否定するのではなく、お互いに知恵を出し合えばいいんじゃないでしょうか。

それぞれの試算結果に、なるほどと思える部分があるのに、今はお互いを否定するために数字を使っているものですから、あまり建設的な議論に発展していません。
そういう数字の使い方はやめてほしいなぁ、と個人的には思います。

「それが中央省庁ってもんだよ」なんておっしゃる方もいるかも知れません。しかし個人的には、日本を良くするためにはこういうところを一番最初に直すべきだと思います。

そしてそのためにも、日本にも独立系の政策シンクタンクがもっとあればいいのに、と思います。

日本の政策決定の場で使われるデータって、官僚の皆様が、自前で用意しているものが多くありませんか。もしくは、お客様御用達のレポートを用意するのが得意なシンクタンクばっかり使っていませんか。これじゃ上のように、自分達に都合の良いデータをお互いが並べて、綱引きしあうだけです。

政策の分析・評価を行うシンクタンクがいくつもあって、それぞれが様々な視点で提言を出すような環境がつくれないものでしょうか。
マイスターが知っている日本の独立系政策シンクタンクは、↓こちらの「構想日本」くらいです。

■構想日本
http://www.kosonippon.org/index.php

そんなわけで長くなりましたが、今日は大学関連の試算結果をあれこれ並べてみました。

これらの数字、みなさんはどう思われますでしょうか。数字を引用される際は、くれぐれも建設的な使い方をされるようにお願いいたします。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  • こんにちは。教育系の大学院で現在、院生をやっていますが、正直、なんだかなあと思います。
    独立系のシンクタンクの必要性は感じますし、特に高等教育政策の研究の蓄積は私も必要と思いますが、いかんせん、そのための人材と経済的基盤が…。
     こばこばがやればいいのでは?という声もあるのかわかりませんが、なかなか一人でやるにはリスクの大きいものがあります…。