産能大による「大学職員を対象とした人材育成実態調査」

マイスターです。

もう一ヶ月ほど前になりますが、↓こんな調査の結果が発表されていました。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「大学職員を対象とした人材育成実態調査」(産業能率大学)
http://www.sanno.ac.jp/research/univ_hrd.html
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18歳人口の減少や国立大学の法人化など、大学を取り巻く環境は大きく変化しています。また内部環境においても、職員の多様化(正規職員・派遣職員・パートなど)、教職員の高齢化、人件費の増大などにより大学経営は厳しさを増しています。これらの変化に適応するため、各大学では生き残りをかけたさまざまな施策を模索しています。
 一般企業とは異なり、依然として年功的な側面に重点がおかれた人事制度が多いと思われている学校法人においても、職員の意欲を高めるために「人事考課制度」や「目標による管理制度」の導入に取り組む大学が増えているようです。
 そこで本学では、このような環境の変化に対応していくために、全国の大学が「職員の人材育成」を、どのように考え、どのように実施しているかについて、その実態を明らかにするとともに、今後の課題を探ることを目的に調査を実施しました。
(上記記事より)

学校法人産業能率大学総合研究所による調査です。
同種の調査としては、

・「大学職員人事政策に関する調査」(2004年9月,大学行政管理学会)

などがあります。
しかし大学職員の人事に関する研究の歴史はまだ浅く、我々大学職員の生態は謎に包まれておりますので(笑)、こうした調査結果はとても貴重です。

上記のwebサイトには調査結果の要約だけが掲載されていますが、マイスターは報告書の本文を取り寄せてみました。

今回の調査では、全国の国公立・私立大学計679法人の人事担当部長宛に設問・問題用紙を郵送し、214法人から回答を得たとのことで、この内訳は国立32、公立28、私立154です。大学の規模では職員の人数50名未満が24.8%、50~100名未満25.2%、100~200名未満29.4%、200名以上29.4%となっています。調査期間は平成18年7月~8月でした。

さて、さっそく報告書を読んでみると……人事考課制度についての調査・分析が内容の多くを占めています。
そうか、大学職員の世界もそういう観点で研究されるようになってきたんだなぁ……としみじみします(産業能率大学総合研究所は経営コンサルティングも行っていますから、そういった仕事の受注に結びつけたいという意図もあるんだろうなとも思いますけれど)。
皆様、このテーマに関心を寄せておいでなのでしょうかね。

例えば「現在、『人事考課制度』を導入していますか?」という設問。
国公立大学の40.0%、私立大学の63%が「導入している」と回答しています。
さらに都市部と都市部以外の比較で言うと、都市部の44.7%、都市部以外の38%が「導入している」と回答しています。
都市部の私立大学に勤めるマイスターですが、自分の職場では人事考課制度は導入されていません。議論すらされている気配がありませんから、導入されるとしても5~10年先のことなんじゃないかとも思えます。ですのでこういった調査結果から、ちょっと危機感を覚えてしまいます(と、このような感じで産能大はコンサルティングの仕事を受注するのでしょう)

「『人事考課制度』導入の目的は?」という設問(複数選択可)では、
「職員の能力開発・育成」が71.3%でトップです。
その後は「処遇に反映させ、処遇における公平をはかる」66.7%、
「管理者・職員間のコミュニケーション向上」52.9%と続きます。
(ちなみに「職員の適性配置」を理由に挙げた大学は33.3%でした)

前向きな理由が多いですが、人事の部長さんに聞けばそりゃこう回答するよなぁという気もします。また設問の選択肢に「人件費削減に正当性を与えるため」といった類の項目が入っていなかったのも個人的には非常に残念です(万が一、生臭い結果が出てしまうとコンサルテーションの宣伝に使えないということなのかな、とついつい勘ぐってしまったりもします)。

一方、「『人事考課制度』を導入しない理由」という設問もあるのですが、ここでは
「考課基準そのものがない、または曖昧」
が、68.9%でトップでした。

これに関して、他にも興味深い集計結果があります。

現在の「人材育成」について既に導入している取り組みがあったら選択してください、という設問があるのです。
その選択肢は

・「望ましい職員像」を職員に公開している。
・職員の能力要件が職員に公開している。(※原文ママ)
・全学的な人材育成体系・研修体系等を設けている。
・新人、各階層別研修など、計画的な育成制度(研修制度)を実施している。
・各職場においてOJT(On-the-Job-Training=職場内教育)を実施している。
・計画的なジョブローテーション(人事異動)を行っている。
・自己申告制度を設け、実施している。
・自己啓発援助制度を設け、実施している。(職員に対する研究費支給等を含む)
・人材育成については各職場に任せている。
・その他(  )
(複数回答可)

……というものなのですが、この中で最も回答が少なかったのが<「望ましい職員像」を職員に公開している>、その次に少なかったのが<職員の能力要件が職員に公開している>だそうなんです。ともに1~2割程度の大学しか実施していません。

「望ましい職員像や、求められる能力要件を公開していない」のに、
「『職員の能力開発・育成』を目的として」
「人事考課制度を導入している」……?

なんというか……大丈夫なんでしょうか、これ。
もちろん、この条件にぴたり一致する大学がどれほどあるかは分かりません。が、それにしても、マイスターには様々な矛盾に満ちた状況であるように感じられます。

というか、人事考課制度はともかく、望ましい職員像をビジョンとして提示していない大学が大半だという状況は、大いに問題だと思います。
大学職員が専門職として認められる日は、まだまだ遠いようです。

この他にも、管理者・一般職ごとの「今後必要とする人材」イメージを聞いた設問など、興味深い結果が多いです。

ご興味のある方は、本文を取り寄せてご覧になってみてはいかがでしょうか。
産業能率大学のトップページに「企画広報室」の連絡先が掲載されていますので、そこに電話をすると送っていただけます)

以上、マイスターでした。

【2/23追記】
今回ご紹介させていただいた報告書ですが、↓こちらからダウンロードもできるようです。

■「vol211:『大学職員を対象とした人材育成』実態調査報告書」(Sanno e-Learning Magazine)
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/d/20070131