財政破綻 夕張市の小中学校が11校から2校に統合

入職以来、大学業界の様々な方と名刺を交換してきたマイスターです。

大学経営のセミナーや勉強会に行くと、たいてい懇親会がついています。参加者の多くは大学職員ですが、たまに、行政関係者にお会いすることがあります。

1年半ほど前に参加したある懇親会では、某市の市役所におつとめの方と話す機会がありました。お名刺を見ると、「市立大学設立準備担当」云々の肩書き。その市は、小さくはないけれど、かといって大学を運営できるほど大きくはない都市です。「えぇ!? このご時世に市立大学を設立するんですか!?」と、失礼と思いながら、思わず尋ねてしまいました。
そのときは、「いやぁ、市長がやる気を出していて……でも、どうなるかわかりません」というお返事でした。それ以後、その市が大学を設立するといった話は、まだ耳にしていません。
その市長が大学を設立したいと思った動機は不明です。意義がまったくないとは言いませんが、客観的に見て、その市が大学を運営しなければならない理由があるとは、マイスターには思えませんでした。一度設立したら、財政を傾けそうです。

さて、話は変わりまして、いま深刻な財政危機を迎えている都市がありますね。北海道の夕張市です。ニュースで報道されていますので、皆様もご覧になったと思います。現在の人口は約1万3,000人。来春の累積赤字は約360億円になる見込みだそうで、市は緊急の財政再建策を実施する必要に迫られています。
その深刻さについては、以下をご覧ください。

■「夕張市再建案に市民ら悲鳴・怒り 『出るも残るも地獄』」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/1122/005.html
■「夕張市」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%95%E5%BC%B5%E5%B8%82#.E8.A1.8C.E6.94.BF

正直、これでは市民が流出し、いっそうジリ貧になってしまうのではないかと思ってしまうくらいの苛烈な再建プランです。

で、マイスターとしては、特に↓この部分に触れずにはいられません。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「財政破たんの夕張市、11小中学校を2校に統合へ」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news2/20061120wm03.htm

■「破たん・夕張再建:学校遠くなる 7小学校・4中学校→各1校に統廃合」(MSN毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/hokkaido/seikei/news/20061115ddr041010004000c.html
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夕張市の財政再建計画の骨子には、市内に11校ある小、中学校を、2010年までに小、中学校各1校に統廃合する案が盛り込まれた。ピーク時には、小学校22校、児童数2万405人(1959年)、中学校9校、生徒数9727人(62年)を数えた夕張市。道教委義務教育課によると、小学校が1校しかない市は道内ではほかになく、親たちには教育環境や将来への不安が広がる。

夕張市教委の統廃合案では小学校7校、中学校4校を、清水沢小と清水沢中の各1校に統合する。両校は地理的に中央に位置し、児童生徒も多い。市はスクールバスを導入するが、児童らは最長で約30分かけて通学することになるという。

市教委によると、70年代建設の校舎は1校平均で年間約1000万円の維持費がかかり、統廃合は約9000万円の節減につながる。高橋満教育次長は「財政破たんで、今後さらに人口流出は進むだろう。現体制の維持は困難。一か所に集約して整備していくことで、教育水準は維持していきたい」と話す。
(略)
現在、夕張市に務める教員は118人。その多くも、市外に去っていく。
(「財政破たんの夕張市、11小中学校を2校に統合へ」(読売オンライン)記事より)

上記の通り、財政の効率化のため、市内の小中学校をそれぞれ1校ずつにまで統合するとのことです。「ええっ!?そんなことが可能なの!?」と、思いますよね。

果たして、本当にこれだけの統合は可能なのでしょうか。

ちょっと調べてみましょう。
ニュースでは、現在の夕張市の小中学生の人数が報じられていません。で、夕張市のwebサイトを見てみると、学校行政や教育に関する情報がどこにも掲載されていません。

■「夕張市 地域情報提供システム」(夕張市)
http://www.city.yubari.hokkaido.jp/

各校それぞれのwebサイトもまったく作られていませんので、これでは各校ごとの在校生数がわかりません。(というか、財政の詳細データもありません。大丈夫でしょうか夕張市)

仕方がないので、おおよその状況を掴むために、人口動態を見てみます。

■「年齢別人口」(夕張市)
http://www.city.yubari.hokkaido.jp/contents/7d3c100a1620242/7d3c100a16202426.htm

平成5年、7年、12年というのは、国勢調査が行われた年ですね。平成12年における5歳から19歳までの年齢分布は、以下のようになっています。

5~9歳:425人
10~14歳:537人
15~19歳:537人
(「年齢別人口」(夕張市)より。人数は男女の合計)

5歳から9歳が、425人。便宜上、試しに単純に5で割ってみると、1学年あたりの人数は85人ということになります(実際には5学年均等というわけではないでしょうけれど)。同じように計算すると10~14歳は、1学年あたりおよそ107人です。
この数字だけ見ると、確かに「数字の上では」、小中学校それぞれが1校ずつあればいいようにも思えます。

しかし……うーん、実際には、やっぱり問題も多そうです。

そもそもこれまで通っていた学校が突然なくなってしまうということ自体、子供達にとっては大きなショックだと思います。

また、徒歩で通学できない子供も出てきますので、スクールバスを導入すると夕張市は言っています。これは登下校時の安全を確保するという点からすれば、必ずしもデメリットばかりではないでしょう。
でも逆に言うと、バスを使わないと行けないくらいの広域から児童生徒を集めるわけですから、子供達同士の交流はとても難しくなりますね。放課後、友達の家に遊びに行けません。現在も同学年の子供は少ないですから、近所に同級生がたくさん住んでいるような状況ではないのでしょうけれど、やはり学校の級友達が全員離ればなれというのはなんだか気の毒です。
夕張市の財政状況を考えるとスクールバスも必要最低限の本数しか運行されないでしょうから、放課後にグラウンドで遊んでから帰る、なんてのも難しそうです。部活動の活動時間などにも制限がかかるのではないでしょうか。

さらに各コミュニティにとっても、公立小学校の過度な統廃合には問題があります。
というのも小学校って、地域の交流の場でもあり、子供達の遊び場でもあり、いざというときの避難所でもありと、役割が色々あるんですよね。単なる「教育のためのハコ」ではなく、人々が集うコミュニティの核という役割も担っているのです。

実際、都市計画の理論には「近隣住区」といって、一つの小学校の通学圏を基本単位として生活区域を計画する考え方があるくらいです。小学校がなくなってしまうと、都市やコミュニティの機能にも支障をきたすおそれがあります。
せめて学校の替わりに、地域のコミュニティセンターなどに転用されるのならいいのですが、↓どうやらそれも難しいみたいです。http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news2/20061121wm00.htm

……文部科学省施設助成課によると、減価償却期間を過ぎていない校舎を壊したり、民間などに売却したりする「財産処分」を行った場合、自治体は国庫補助金を返還しなければならない。

市教委が昨年3月末に閉校した夕張中を含む計10校の校舎を処分した場合、返還すべき国庫補助金は、約17億9000万円になることがわかった。

市教委の高橋満教育次長は「育児や福祉施設に転用しようにも、小学生、中学生向けに作られた校舎は、老朽化もあって改修が必要。でも、工事費用は捻出できそうもない」とこぼす。
(「財政破たんの夕張市。廃止の小中9校舎が野ざらしの恐れ」(読売オンライン)記事より)

どんどんジリ貧になってしまっているような気がします。学校を無くすことで、夕張市の市民生活はさらに厳しい状況に追い込まれることになりそうです。

……と、あれこれ勝手に書きましたが、しかし夕張市の財政が困窮を極めており、できることをやっていかないと本当に破綻してしまうというのも事実です。理想の教育からはかけ離れていますが、公立小中学校の統廃合が検討されるのも、この条件下ではわからなくもありません。だって、それくらいしかもう手だてがないのですから。

こんな財政状況になってしまったのは、これまでの行政の責任も大きいです。夕張市は知事の許可を得ない地方債「ヤミ起債」を発行するなど、赤字隠しの体質を持っていたようです。また市職員の急激なリストラ案が出されているようですが、そもそも現在、夕張市の職員は人口や産業構造などが同規模の自治体の平均に比べて倍近くいるそうです。これまで取ってきた観光振興策なども、かえって負債を大きくしてしまうような失敗が多いみたいですし。

子供の人口もどんどん減っています。今一度、市の「年齢別人口」を見てください。

平成2年度の5~9歳:890人

  ↓

平成7年度の10~14歳:773人

  ↓

平成12年度の15~19歳:537人
(「年齢別人口」(夕張市)より。人数は男女の合計)

上記の3つの数字って、同じ子供達を指しているのですよね。こんなに減ってしまっているということは、市外に流出したんだと思います。全人口も、20,969人→17,116人→14,791人と減っていますので、子供の数が減るのは当然と言えば当然なのですが、学校行政への影響は大きいです。今回、苛烈な財政再建策が発表されたことで、来年以降の人口はさらに減るでしょう。政治や行政の責任は非常に重いです。
ただ、市の職員も、これから気の毒なくらい厳しい生活を強いられることになるようです。市でも、経営のうまさによってこれだけの状況に追い込まれることがあるぞという例ですね。

というわけで、結局どうすればいいのかはわからないのですが、「自治体財政の状況が子供達の教育にとって大きな影響を与える」ということをご紹介したかったのです。夕張市の住民の皆様は、本当に気の毒だと思います。今後、うまく財政再建が進むといいのですが……。

以上、マイスターでした。